2008. 04. 17
『灰色の女』 A・M・ウィリアムスン
A Woman in Grey (1898)アリス・ミュリエル・ウィリアムスン / 中島賢二 訳 / 論創社
論創海外ミステリ73
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アモリー家に伝わる由緒ある屋敷、ローン・アベイ館。二十年前に元女中頭によって買い取られたが、七年前にその老女は時計塔の中にある自分の部屋で殺され、それ以後、館は荒れるがままで、老女殺しの犯人として逮捕され獄中死した若い娘の幽霊が出るという噂が囁かれていた。館を買い取ることになった叔父アモリー卿のために下見にやって来た青年テレンス・ダークモアは、誰もいないはずの時計塔で、灰色の服を着た謎めいた美女・コンスエロと出会う……。
黒岩涙香が翻案し、さらに江戸川乱歩がリライトした 『幽霊塔』 の原作――だそうなんだけど、両方とも読んでいない私にとってはそれにはあまり関心がなくて、この本を手に取ったのも、単にヴィクトリア朝に書かれたゴシック・スリラーに飢えていたからなのよ。
題名からしてウィルキー・コリンズの 『白衣の女(The Woman in White)』 を意識しているらしいことが見て取れますが、コリンズやレ・ファニュのスリラーの亜流と言うべきか、さらに通俗的にして、おどろおどろしさを強調し、けばけばしくしたような感じ。けばけばしいと言うのは、謎めいた美女・老婆殺し・幽霊・暗号・首なし死体・密室からの人間消失・監禁・毒薬・目の光る肖像画・壁を這いずりまわる手・仕掛けのあるベッド・偽の電報etc.……と、よくもまあここまで次から次へと詰め込んだもんだと感心してしまうくらい、ゴシック・スリラーの定番アイテムの大バーゲン状態だから。この手の小説は当時「センセーション・ノベル(扇情小説)」と呼ばれていたようだけど、納得のいく呼び名ですね。
あと、この物語を素直に楽しめなかったのは、主人公テレンス(とコンスエロにも)に好感を持てなかったのも大きいと思います。美しい女性に惚れ込んで周囲や物事を冷静に見ることができなくなり、彼女の言うことを盲目的に信じ込むことを騎士道精神だと勘違いする若い男ほど、物語の語り手として鬱陶しく、始末に負えないものはない。しかも、こいつ、婚約者のポーラをコンスエロと比較して、眉に個性が感じられないだとか、耳たぶが厚すぎるだとか、延々と一ページにも渡ってポーラの容姿に細か〜くケチをつけ続けるんですよ、もうドン引きですよ。自己中で腕力に物を言わせるようなところもあるし、なんでこんな男をポーラもコンスエロも好きになるのか理解できんわ。顔かよ。
ただ、○○○○ネタには結構ビックリだったなあ。謎解き的な驚きではなく、この時代にもうこれがあったのか、という驚きで。
[追記: その後、セイヤーズの「探偵小説論」を読み返していたら書いてあったんだけど、○○○○ネタは、レ・ファニュが "Checkmate (1871)" という未訳の作品で使っているそうだ]
* Tag : 論創海外ミステリ
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