* Caramel Tea *

Reading Diary

2007年06月の記事一覧

2007. 06. 27

『三番目の魔女』 レベッカ・ライザート

Amazon.co.jp で詳細を見るThe Third Witch (2001)
レベッカ・ライザート / 森祐希子 訳 / ポプラ社
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スコットランド、バーナムの森で二人の老婆ネトルとマッド・ヘルガとともに暮らす少女ギリー。彼女はかつて自分からすべてを奪っていった武将マクベスに激しい憎悪を燃やし、復讐のときを窺っていた。マクベスに近づくため、ギリーは少年に扮し、台所の下働きとして彼の城に潜り込むことに成功するが…。

シェイクスピアの 『マクベス』 を、マクベスに復讐を誓うひとりの少女を主人公にして書き直した作品。
おもしろかった〜。
『マクベス』 の物語がこの作品のなかでどのように再現されるのかという興味の他に、後半になると、マクベスに復讐しようとすればするほど他の人たちの不幸を招くという悪循環に嵌ってしまうギリーの行く末が気になって、夢中になって読んでしまいました。
訳者あとがきには「『マクベス』を読んだことがなくても差し支えない」とありますが、『マクベス』 を知らずにこの作品を読むのはもったいないと思う〜。三人の魔女の予言やバンクォーの亡霊、動く森など、大胆なアレンジがなされていて、「こう来たか」という意外性がおもしろいので。
また、男装してマクベスの城に潜り込むギリーの冒険物語としても、その中世の城での暮らしぶりの描写&城で出会う人たちとのやりとりをひっくるめて楽しめます。
しかし、上に書いたように、ギリーがマクベスに復讐しようと行動すればするほど周りの人たちが不幸になっていって(シェイクスピアの悲劇のとおりに話が進んでいくので仕方ないんですが…)、かなり悲惨&痛々しい話だよなあ…。その点、それまでとは打って変わったようなノーテンキなエピローグ部分は、もうちょっと他にどうにかならなかったのかと思う…。あと、マクベス夫人の描き方もちょっと不満。

著者ライザートには2作目として、『ハムレット』 のオフィーリアを創造的で情熱的な若い女性として描いた作品もあるそうで、そちらもぜひ読んでみたいです。

2007.06.27 23:56 | Comments(0) | Trackback(0) | 海外文学

2007. 06. 27

昼ドラ原作

鳩の翼(下)鳩の翼(上)7月から始まるフジテレビ系列のお昼の連ドラ「金色の翼」、なんとヘンリー・ジェイムズが元ネタなんですね〜。最初題名見て 『金色の盃』 かと思ったら、『鳩の翼』 のほうでした。もっとも、「登場人物紹介」などを見ても、『鳩の翼』 の設定をいくつか使っているだけで、まったく別物になっていそう。(どんなものでも昼ドラのネタにしてしまうっていうのはすごいな…)
だけど、このドラマを見て元ネタの 『鳩の翼』 を読んでみようと思う人、いるかな? 私は数年前に読んだんですが、登場人物の心理描写がとにかく細かくて濃くて難しくって、さらにストーリーがかなり世知辛いものなので(友情も愛情も利用できるものはとことん利用しつくす登場人物たち)、なんとか読み終えたときにはヘトヘトになっていました…。Amazonのカスタマーレビューに「体力・気力が充実しているとき向けかもしれません」とあるけれど、その通りだと思う。おまけに、講談社文芸文庫という点がまた、敷居が高い(笑)。
ちなみにこの 『鳩の翼』、ヘレナ・ボナム・カーター主演(ケイト役)でイギリスで 映画化 されています。


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ついでに新刊メモ。

Amazon.co.jp で詳細を見る治療島
セバスチャン・フィツェック / 柏書房

本屋で平積みされていた本。あとでAmazonで見てみるとランキング20位になってる。売れてるんだね。ドイツの「新感覚のサイコスリラー」だそうですが、おもしろいのかなー。

2007.06.27 23:29 | Comments(0) | Trackback(0) | その他の話題・雑記

2007. 06. 25

『すべての終わりの始まり』 キャロル・エムシュウィラー

Amazon.co.jp で詳細を見る短篇小説の快楽2
The Start of the End of It All
キャロル・エムシュウィラー / 畔柳和代 訳 / 国書刊行会
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“あなた”の家に潜み静かな生活を揺さぶる“私”、謎の生き物に出会う姉妹、エイリアンに協力を求められるバツイチの女、空飛ぶスーパーおばあちゃん――浮遊感漂う繊細な文章と奇天烈な発想がもたらす衝撃力あふれる19の物語。唯一無二の奇想作家エムシュウィラー、本邦初の作品集。

日本オリジナル編集の短篇集。
何かと何か(人間だけではなくエイリアンや鳥人間、その他得体の知れない生物など)の関係性を中心に据えた作品が大半で、そのほとんどが女性の生と性について奇想を交えて軽やかに描き出している。また、一人称語りのものが多く、あまり背景の客観的説明がなされないで語り手の主観で話が進んでいくので、読者はある程度自分の想像で補いつつ読んでいかなければならない。
理屈などよりも感覚で読む、って感じかなあ。その感覚がとても好みで、読んでいて心地よかった。温かい結末、それでなくとも主人公が悲観的でない終わり方をする作品が多いところもいいな。
私がこの本を読んでみようと思ったきっかけの収録作「偏見と自負(Prejudice and Pride)」は、ジェイン・オースティンの 『自負と偏見(高慢と偏見)』 のリジーとミスター・ダーシーの性愛面について触れた5ページの短編でした。

* Tag : 短編集  

2007.06.25 22:37 | Comments(0) | Trackback(0) | 海外文学

2007. 06. 21

『百歳の人―魔術師』 バルザック

Amazon.co.jp で詳細を見るバルザック幻想・怪奇小説選集1
La Sorcier (1822)
オノレ・ド・バルザック / 私市保彦 訳 / 水声社
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夢想を誘う七月の真夜中、岩山の懐からは煙が立ち上り、父親思いの優しい娘が失踪する。鍵を握るのは、若き天才ベランゲルト将軍の生涯につきまとう不気味な老人。人間を「束の間の生の子ら」と呼ぶ彼が姿を現すところ、不可解な事件が起こる。 (カバー折込より)

ナポレオンのもとで天才ぶりを発揮する青年軍人テュリユス・ベランゲルトと彼の行く先々に姿を現して助力する不死の怪人「百歳の人」の因縁を、テュリユスとベランゲルト家の財産管理人の娘・マリアニーヌの恋を交えて描いた、「呪われた放浪者」テーマのゴシック小説風の流行小説。
訳者解説によれば、当時のフランスではマチューリン著のイギリスのゴシック小説 『放浪者メルモス』 が大人気だったため、出版元にフランス版 『メルモス』 を書いてくれと言われ、バルザックが「オラース・ド・サン=トーバン」というペンネームで書いたのがこの作品らしい。私は 『放浪者メルモス』 は未読なので、本作と元ネタの類似点・相違点などについてはよくわかりません。ついでにバルザックの作品ももう何年も前に2〜3作読んだっきりなので、本作が後期の作品に比べてどうか、という比較も出来ません。
中盤あたりから興味が薄れつつ読んでいたのだけど、終盤、マリアニーヌを攫った老人の隠れ家がパリの地下にあるというところは、『レ・ミゼラブル』 の地下水路や 『オペラ座の怪人』 を連想して、ちょっとワクワク。

2007.06.21 22:25 | Comments(0) | Trackback(0) | 海外文学-19世紀

2007. 06. 17

『ふくろう模様の皿』 アラン・ガーナー

Amazon.co.jp で詳細を見るThe Owl Service (1967)
アラン・ガーナー / 神宮輝夫 訳 / 評論社
[ Amazon ]

両親の再婚によって義理の兄妹となったロジャとアリスンは、北ウェールズのある谷間の古い屋敷に一家揃ってやってきた。ある日、屋敷のコックのナンシイの息子グウィンとアリスンは、花のように図案化されたふくろうの模様の絵皿が部屋の天井裏に積まれているのを見つける。グウィンからそのことを聞き、何故か激怒するナンシイ。その後、皿の模様が消えたり、不気味な物音がしたりと、屋敷で不可思議な出来事が続発する…。

ケルトの神話・伝説集「マビノギオン」のなかの「マソーヌイの子マース」をもとにした作品。舞台となる北ウェールズのある谷間では、その伝説に登場する「フリュウ、プロダイウィズ(花から作られたフリュウの妻)、グロヌー(プロダイウィズの愛人)」の三人の愛情関係のもつれが何世代にも渡って繰り返され、前の世代ではグウィンの母ナンシイが、そして今の世代ではロジャ・アリスン・グウィンの三人がそれに巻き込まれることになります。お嬢さま育ちのイングランド人・アリスンと、使用人の息子で才能あるウェールズ人・グウィンが惹かれあい、それをおもしろく思わないロジャ…。
私が 『シャーロット・ゲスト版 マビノギオン』 Amazon.co.jp で詳細を見るでフリュウたち三人の話を読んだときには、結託してフリュウを殺そうとするプロダイウィズとグロヌーの二人が悪者というか「ひどい」としか思えなかったのですが(グロヌーの最期がまた情けなく書かれているし)、著者ガーナーはこの伝説を「自分たちの落度からでなく、むりやり結びつけられたがために、たがいに相手を破滅させる三人の悲劇」と捉えて描いています。んー、よくよく考えてみればその通りなのかなー。流石に夫を殺してしまおうとするのは行き過ぎだろうと思うけど、伝説なんだし、普通の感覚で推し量れるものではないかも…。

2007.06.17 23:51 | Comments(0) | Trackback(0) | SF&ファンタジー

2007. 06. 16

気になる新刊

東京創元社のメルマガ「近刊案内(2007年8月刊行予定分)」より

【創元推理文庫】(海外ミステリ)
◇『赤き死の訪れ』 ポール・ドハティー著/古賀弥生訳
ロンドン塔連続殺人に挑むアセルスタン修道士。歴史本格第2弾。

【創元推理文庫】(ファンタジー)
◇『ずっとお城で暮らしてる』 シャーリイ・ジャクスン著/市田泉訳
閉ざされた城に棲む暗き魂の少女たち。美しき狂気譚、新訳で登場。

創元のドハティー第2弾が来た。ハヤカワのドハティのほうはどうなっているのやら…。
『ずっと〜』 はファンタジーなの?

ついでに、新刊&刊行予定のなかから気になる本のメモ。

『短篇小説の快楽 すべての終わりの始まり』 キャロル・エムシュウィラー / 国書刊行会
『狂人の部屋』 ポール・アルテ / ハヤカワ・ポケミス

6/18 『アイスマーク 赤き王女の剣』 スチュワート・ヒル / ソニーマガジンズ (原書)
6/29 『陰陽師 夜光杯ノ巻』 夢枕獏 / 文藝春秋

7/06 『ドラゴンと愚者』 パトリシア・ブリッグス / ハヤカワ文庫FT (原書)
7/10 『本泥棒』 マークース・ズーサック / 早川書房 (原書)
7/12 『ダリアハウスの陽気な幽霊』 キャロライン・ヘインズ / 創元推理文庫 (原書)
7/25 『バーチウッド』 ジョン・バンヴィル / 早川書房
7/25 『輝くもの天より墜ち』 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / ハヤカワ文庫SF
7/27 『うちの一階には鬼がいる!』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ / 東京創元社
7/28 『P・G・ウッドハウス選集3 マリナー氏の冒険譚』 P・G・ウッドハウス / 文藝春秋

7月のハヤカワは頑張りすぎだと思います。
あと、文春のウッドハウス選集がやっと来た。
『すべての終わりの始まり』 はアマゾンで目次ページ見てたら「偏見と自負」という題名が目に付いたので読んでみたくなりました。

※ なじみの薄い著者の本に、原書へのリンクを貼ってみました。リンク先は米もしくは英アマゾンです。私、ファンタジーやコージーミステリの翻訳新刊は海外版アマゾンで原書チェックしてみることが多いので、ブログにもついでに…。

2007.06.16 22:33 | Comments(4) | Trackback(0) | 気になる新刊・近刊

2007. 06. 16

『おしゃべり雀の殺人』 ダーウィン・L・ティーレット

Amazon.co.jp で詳細を見る世界探偵小説全集23
The Talking Sparrow Murders (1934)
ダーウィン・L・ティーレット / 工藤政司 訳 / 国書刊行会
[ Amazon ]

「雀がしゃべった……」謎の言葉を残して老人は息絶えた。それが恐るべき連続殺人の始まりだった。ヒトラーが政権を掌握、ナチスのユダヤ人襲撃が頻発する緊迫した状況下のドイツの古都ハイデルベルクで、アメリカ人技術者が巻き込まれた謎の殺人事件。毎日決まった時刻に松の木に敬礼する男、主人公をつけねらう不気味なナチの指導者……次々に降りかかる難問を解決して、果たして無事アメリカ行きの船に乗ることが出来るのか。1934年、迫り来る戦争の影のなか発表され、ドロシー・セイヤーズが絶賛した異色ミステリ。 (カバー折込より)

訳ではなくて原文のせいだと思うけど、非常に読みにくい作品でした。
冒頭なんの前置きもなく物語が始まるので、現在進行形の話(主人公の一人称語り)だと思って読んでいたら、40ページを越したところで突然「今にして思えば〜」とか「後になって考えてみれば〜」という、「そのときの私たちには知る由もなかった」系統の文章が出てくる。なんだこれ、主人公が事件を回想して書いているという設定だったのか。それに、場面転換が唐突すぎるところもあったし…。
ナチスが脅威を振るいつつあるドイツの不穏な様子が描写され(ユダヤ人の虐殺死体が公園に転がっている話にはぞっとさせられる)、異様な雰囲気が作品全体を覆っている点では、まさに「異色」と言える作品(作者は1920年代後半にドイツに留学していたそうです)。しかし、その背後に、「ノーテンキなアメリカ人青年が異国で事件に巻き込まれる(謎めいた美女とのロマンス付き)」というお決まりの展開といい、無理にタイムリミットを設定している点といい、いかにも「アメリカ人作家が書いた」という感じのものがチラついて見えるのが興醒めでした。

* Tag : 世界探偵小説全集  

2007.06.16 00:54 | Comments(0) | Trackback(0) | ミステリ&サスペンス

2007. 06. 13

『双生児』 クリストファー・プリースト

Amazon.co.jp で詳細を見るThe Separation (2002)
クリストファー・プリースト / 古沢嘉通 訳 / 早川書房
プラチナ・ファンタジイ
[ Amazon ]

第二次大戦の飛行兵J・L・ソウヤーの回想録に書かれていたのは? 同じイニシャルを持ち、歴史の流れに翻弄される一卵性双生児、ジャックとジョーの人生を、虚実入り乱れた「語り=騙り」で描く。

おおまかな仕組みはわかったけれど、「じゃあ、あれはどうなってるの?」とか細かい部分を考え始めるとよくわからなくなってくる…。
あと、第二次世界大戦について詳しい読者だと、より楽しめるんじゃないかなー。

……感想ともいえない駄文になってしまいましたが、プリーストの作品はいつも感想書くのが難しい。

2007.06.13 23:45 | Comments(2) | Trackback(1) | SF&ファンタジー

2007. 06. 05

『停まった足音』 A・フィールディング

Amazon.co.jp で詳細を見るThe Footsteps That Stopped (1926)
A・フィールディング / 岩佐薫子 訳 / 論創社
論創海外ミステリ52
[ Amazon ]

タンジ夫人という三十五歳の女性が、自宅の一室で心臓を銃弾で撃ち抜かれて死んでいるのが発見された。傍らには彼女の指紋のついたリボルバーが落ちており、争った形跡はない。自殺か事故か、それとも殺人か。屋敷のメイドは、事件直前に庭を歩いていたタンジ夫人の背後で不審な足音がしたと言う。金に困っている夫のタンジ、コンパニオンのミス・ソーンダーズ、前夫の従兄弟ヴァードンなど、怪しげな行動を取る周囲の人々。スコットランド・ヤードのポインター主任警部、地元の警察署長のハヴィランド警視、保険会社から依頼を受けた有名新聞記者ウィルモットの三人が事件の調査に当たるが…。

イギリスの女性作家の作品。
あまり期待せずに読んだのだけど、これはびっくりした。犯人の意外性がすごい。実は「この人が犯人だったらおもしろいのになあ」と思いつつ読んでいたものの、まさかその通りだったとはね。(犯人の動機に関しては、もっと早い時点で提示することができたし、また、そうしたほうがよかったんじゃないかと思う)
しかし、物語処理があまりうまくないように思えます。話を作りすぎているせいでごちゃごちゃしているし、事件関係者たちがなぜ不審な行動を取ったのかという理由の数々も無理にこじつけたように感じられる。あと、「偶然」の要素も多用しすぎ。
探偵役のポインター警部は、基本的には地道な捜査をこなす地味な存在ですが、事件解決のためには不法侵入や詐欺まがいの行為などどんな手でも使ったり(登場人物のひとりに「やつが証拠をつかむためにとる手段ときたら、どんな犯罪者よりも悪辣だ」とまで言われている)、北アフリカの長老から大変高価な「グル・ナッツ」を彼の助力のささやかな礼としてもらったという妙な過去があったりと、一風変わった人物でもあります。で、「グル・ナッツ」って何?

* Tag : 論創海外ミステリ  

2007.06.05 23:51 | Comments(0) | Trackback(0) | ミステリ&サスペンス

2007. 06. 01

『夜愁』 サラ・ウォーターズ

Amazon.co.jp で詳細を見る Amazon.co.jp で詳細を見る

The Night Watch (2006)
サラ・ウォーターズ / 中村有希 訳 / 創元推理文庫
[ Amazon:上巻 ] [ Amazon:下巻 ]

1947年、ロンドン。第二次世界大戦の爪痕が残る街で生きるケイ、ジュリアとその同居人のヘレン、ヴィヴとダンカンの姉弟たち。戦争を通じて巡り合った人々は、毎日をしぶとく生きていた。そんな彼女たちが積み重ねてきた歳月を、夜は容赦なく引きはがす。想いは過去へとさかのぼり、隠された真実や心の傷をさらけ出す。ウォーターズが贈るめくるめく物語。ブッカー賞最終候補作。 (裏表紙より)

数人の女たち男たちが戦後と戦時中の日々を生きていく姿を、大胆な構成で描き出した群像劇。
前半の1947年のパートでは、彼女たちが他人に言えない過去や心の傷を抱えて、毎日をなんとか過ごしている様子が描かれている。話はそこから1944年、さらに1941年へと遡り、空襲下の夜のロンドンで彼女たちに何があったかが明らかになる。だけど、そこで終わってしまうこの話は、1947年の彼女たちになんの答えも救いももたらさない。彼女たちは悩みや苦しみを抱えたまま、それまでの日々を続けていくしかない。しかし、このように結末の与えられていない話にも関わらず、読み終わったときにほんのりと温かい余韻が残るのは、物語の最後の場面がこの作品のなかでいちばん美しくて優しい場面だからでしょう。
ただ、数人いる主要登場人物の誰にも、共感を持つには至らなかったのが残念(これは読者によって個人差があるかも)。特にダンカンの話がどうもピンとこなかった。あと、恋愛描写が赤裸々というか、嫉妬や心変わりの心情が生々しく描写されていたのがちょっと苦手だった…(これは同性愛だけでなく異性愛の話においても苦手な描写なので…)。


ともかく、『半身』 の幻想的な雰囲気とも、『荊の城』 のエンターテイメント性ともがらりと異なり、まさしく「意欲作」と言える作品でした。一作目の "Tipping the Velvet" は読んでいないけど、ウォーターズって作品毎に作風が変わるタイプなのかな。次の作品はどちらの方向に向かうんだろう…。(いつ出るかもわからないけど。『荊の城』 から本作の原書が出るまでに4年も経ってるし)


※ 追記: 現在執筆中の次作は、1940年代後半のイギリスの田園地方が舞台で、階級がテーマの作品だそうです。今のところ、同性愛者は出てこない予定とか。ウォーターズはずっとレズビアンについて書いていくのだろうと思っていたので、ちょっと意外…。 (情報元: ミステリ・マガジン2007年7月号)

2007.06.01 23:24 | Comments(0) | Trackback(0) | 海外文学

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読んだ本の感想メモ、気になる本の情報など。翻訳小説が中心です。特に好きなのは、海外古典ミステリと19世紀イギリス文学。
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